牧野はるみ

ムハール・リチャード・エイブラムス 追悼

 

Great Music Forever! ムーハルが遺してくれたもの

 

 

 

 

 

 私はムーハル・リチャード・エイブライムスの日本公演(1980年?)を観ていない。AACMの事を知ったのも、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを聞き始めてからだったと思う。AACMが設立された当時(1965年)のアメリカにおける、黒人芸術家達の活動もブラックパンサーもマルコムXも、後になって知ったのだった。

 

 東京時代観たシャドウ・ヴィゲッツは、AACMの第二世代というふれこみだった。

 

その頃には私も少しは勉強が進んでおり、彼らの会話に上るミュージシャンの名前が判るようになっていた。盗み聞きしたつもりはないのだが、休憩中の彼らの会話の中で「ムーホーが・・・」と誰かが言った瞬間、その会話に参加していなかったメンバー達が一斉に聞き耳を立て出したのを、私は見逃さなかった。

 

 

 

 初めてムーハルに会ったのは、1993年の一月だった。お宅にお邪魔出来るというので嬉しくてたまらなかった。アーティストハウスのセキュリティーを通り抜けた所で、アミーナ・マイヤーズに遭遇。彼女もこのビルに住んでいるのだ。レオ・スミスに案内され上階へ、「あのドアだよ・・」とレオが指さすと、セキュリティーから私達が来る事を伝えられていたムーハルがドアを開けた。「リーオ!」

 

 広いリビングの半分にグランドピアノ、デスクトップ・コンピューター、絵画がたくさんあった。ペギーが「彼はコンピューターにスコアを書くの」と私に言った。私達がタワーレコードの袋を下げて来たので、ムーハルは中を見たがった。収穫を披露するレオと私。私が買ってきた5枚のCDを「うんうん」と頷きながら吟味するムーハル。ペギーがお茶とクッキーを出してくれたのでいただいた。時間はあっと言う間に過ぎおいとましようとすると、ペギーがクッキーを包むから私にキッチンに来るよう言った。

 

キッチンで私は「音楽家との生活ってどうですか?何か気を付ける事とかありますか?」と失礼な質問をしたと記憶している。ペギーは「そーねー、作曲している時はじゃましない事ね。」と微笑んだ。

 

 

 

 レオと私はその後カリフォルニアに住まいを移したので、ニューヨークのムーハルに会うのは、レオの仕事が東海岸で有る時に限られた。それでも一度だけレオが教鞭をとっていたカルアーツに招かれてコンサートをした時、私達の住んでいた家にも来てくれた事がある。日本から持って来ていたムーハルのレコード全部にサインをして頂いた。「日本人は僕のレコードたくさん持っているんだよね。日本に行った時、レコードを何枚も抱えて来る人がいてびっくりしたよ。それが一人二人じゃないんだもの・・・」そしてMJT+3のレコードを見て、「これは僕も持っていない。姉が僕のレコードを全部コレクションしてくれているので、日本に有ったら買ってくれないかい?」と言うので、後日、大阪の中古レコード屋に有るのが判って、送ってもらった。

 

 

 

 レオのバンドでニューヨークのコミュニティ・チャーチで公演をした時は、ムーハルとAACM・NY支部の皆さんには本当にお世話になった。私一人が素人だったので、あれこれ声をかけていただき動悸が収まった。終わってからムーハルに褒められた時には、レオに褒められるより何倍も嬉しかった。ムーハルは本当に皆に尊敬されていた。そして驚くほど、大勢の中では目立たない人だった。聖人が奇跡を起こして群衆の中を歩き始めた途端、その誰とも見分けが付かなくなるという、昔どこかで読んだ物語を思い出したものだ。ちょっとだけ猫背で歩いて行く後姿を忘れることが出来ない。

 

ムーハル、素晴らしい音楽をありがとう。そしてオリジナルであること、自分自身が原型であり、心で他の人と関わった時に生まれるハーモニーの大切さを、あなたは教えてくれた。

 

 

 

      *

 

 

 

赤ん坊が 生まれた!

 

初めて見る 光に驚いて

 

「ラ」の音で 産声を上げた

 

ああ なんて美しい 奇跡の始まり

 

 

 

音はどこにでもあって 混沌としている

 

でもひとたび 人間の鼓動と息遣いにかかれば

 

動物達を目覚めさせ

 

空に虹をかける事が出来る

 

 

 

響かせよ 己の魂を

 

迫り来る沈黙を 恐れるな

 

喜びを胸に 力そのものより強く

 

新しい物語を奏でよ

 

 

 

     *

 

 

 

本来ならば、ムーハルの音楽とAACMの軌跡のようなものを順を追って書くべきだったかもしれないが、詳しく書かれた本がジョージ・ルイスによって出されているので、今回は遠慮させていただきます。

 

牧野はるみ