1995年7月12日、六本木ロマーニシェス・カフェでの、崔善培カルテットのライヴから収録。メンバーは、吉沢元治、広瀬淳二、金大煥と言う崔善培さんのたっての希望による最強の布陣。CDでは、金さんのソロも含まれている。
Choi Sun Bae - trumpet
Junji Hirose - tenor and soprano saxophones
Motoharu Yoshizawa - electric vertical five-strings bass
Kim Dae Hwan - percussion
1. Blue Sky | 16:53 |
2. Remember Bird | 7:56 |
3. The Stream of Time | 8:13 |
4. Korea Fantasy | 11:14 |
5. Arirang Fantasy | 21:50 |
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崔善培/Choi Sun Bae Quartet:Arirang Fantasy (No Business/1995)
一条の光・弔鐘の彼方へ
音楽プロデューサー、元「ロマーニシェス・カフェ」店主 大木雄高
1985年、近藤等則が仕掛けた「東京ミーティング85」に、金徳朱(キム・ドクス)のサムルノリと共に、サックスの姜泰煥(カン・テーファン)、ドラムス&パーカッションの金大煥(キム・デーファン)、トランペットの崔善培(チェ・ソンベ)の「姜泰煥トリオ」が、韓国から初来日した。これが総ての始まりだった。日本のフリージャズ界に衝撃を与えて、翌86年には佐藤允彦、吉沢元治、山下洋輔たち斯界のトップリーダー等と全国ツアーを敢行して、一躍存在感を揺るぎないものにしたと同時に、ツアーの隙を見て金さんは西麻布のロマーニッシェス・カフェに足繁く通うようになり、親しくなって行った。一年後の87年、韓国に招聘された高田みどり、梅津和時、井野信義の三人が、姜泰煥トリオとジョイント・コンサートをソウルの伝統ある文化ホールで行った時もソウルに行き、三人とも打ち解けていった。
驚きの連続だった。フリージャズといっても、このトリオのそれは欧米や日本とも違う聞いたことのないアプローチ、言わば、卓越した技術に裏打ちされた彼らしか持ち得ない韓国トラディショナルな民俗色を多分にパッセージに取り入れ、独特の世界観を形成しているのだが、韓国のフリージャズの土壌の広さ深さは一体如何に?と思案していると、フリージャズは韓国で彼ら三人のみだったと知り、笑ってしまったのだが、欧米の雑菌に塗れてないその純粋培養性に更に驚いた。日本はフリーの土壌なら韓国とは比べようがないほどある。依って、姜泰煥トリオの来日は楽しみであり貴重だった。ところが88年の来日を持って、彼らは解散してしまうのだ。
バラバラになった三人のうち、行動力旺盛で日本語を学び日本を偉大な実験現場にした金大煥は、来日するたびに哲人の領域を深めていった。姜泰煥も遅れて佐藤允彦と高田みどりでバンド「トンクラミ」を結成して、海外に飛ぶようになっていったが、ここに紹介しようとする崔善培は、名前に一字あるように、善人度が高いとでも言おうか、大学の先生になったこともあって演奏活動が減り、たまに一人で飄々と来日するくらいだった。
かくして1995年6月、崔善培は故副島輝人の招聘で新宿ピットインと西麻布ロマーニッシェス・カフェの二日間のライブのために来日した。方やリーズ・梅津和時、ベース・井野信義、ドラムス・小山彰太のメンバー、方やサックス・広瀬淳二、ベース・吉沢元治、ゲストにパーカッションの金大煥だった。元々レコーディングのためのライブだったので、私が書いたキャプションはかくの如くだった。「レコーデイング・ライブ!金大煥、姜泰煥に次いで,韓国フリージャズの第三の隠し球・崔善培の初リーダー・アルバムに向けた録音ライブ!」だったが、リリース出来なかった理由を知ることもなく中止になって年月が過ぎていった。
金大煥が亡くなった2004年3月1日直後、ソウルで行われた葬儀、七十七忌では当然崔善培に再会したが,式次第を終えた帰国後も、彼のプロデューサーをやっていた私は悲しみに昏れる暇もなく、音源を掻き集めてCD『露如亦如露/金大煥』のメモリアル盤を出した。そこに収録された曲は、1999年に企画した金大煥音楽生活50周年記念コンサートのライブ演奏は、金大煥自身に「あのステージで山下洋輔と渡辺香津美とやった演奏は僕の一番の宝物だよ」と言わしめた程で当然入れた他、貴重な「姜泰煥トリオ」が2曲収録されていて、先述したトリオの凄みと崔善培の天駆けるトランペット・プレイを聴くことが出来る。
そして、同年秋に「日韓文化芸術フェスティバル・金大煥記念」を企画敢行した。金大煥の偉業と遺産を引き継ぐ意志だった。日本人42名のミュージシャン、韓国から姜泰煥、ヘーグムの姜垠一(カン・ウンイル)、コムンゴの許胤晶(ホー・ユンジョン)、ピリの元一(ウォン・イル)、舞踊の鄭明子(チョン・ミョンジャ)、そして崔善培の6人を韓国から招聘した東京FMホールでの2日間3ステージの催しだった。その日は日本からフリージャズ・ミュージシャンが居なくなったのではないかと言えるほどの暴挙だったが、韓国ミュージシャンは毎ステージ出演して貰った。彼らはフェス終了翌日に、大友良英と横浜で追加公演を行い、無事に帰国した。これが崔善培とは最後の別れになってしまった。勿論、崔善培は今も健在です!
それがこの度、末冨健夫、稲岡邦彌両氏からの以来を受けて、ライブ現場のオーナーだったとして、CD化の許可を出すのは勿論のことだったが,何回か遠慮したこのライナー・ノーツも、結局引き受けるはめになり、遠い記憶を頼りにたぐり寄せたが、結果、乱筆乱文に終えてしまった失礼を、両氏のみならず、CDを手に取られた愛聴者にも、謝意を述べて締め括らせて戴きます。
崔善培に幸有れ!